ドイツ語を学び直して数か月。定期的にドイツ語講座に通っています。
そこで最近出てきた例文が、こちらです。
Er muss aus Berlin kommen.
(彼はベルリン出身に違いない)
この例文を見て、私は先生に尋ねました。
「先生、こんな文章、どんなときに使うんですか?」
先生は、
「もしかしたら、その人が ich ではなく ick と言ったのかもしれませんね」
と教えてくださいました。
ベルリン方言では、一人称の ich が ick になるそうです。
先生はドイツで研究され、ベルリンにも住んでいらしたので、その説明に思わず納得しました。
なるほど。
誰かが ich ではなく ick と話したので、「彼はベルリン出身に違いない」と思った。そんな場面を想定した例文だったのかもしれません。
気になって、さっそく Duden をめくってみると、ick がちゃんと載っていました(私が持っている独和辞典には載っていませんでした)。
ick
Gebrauch: umgangssprachlich, besonders berlinisch
「口語で、特にベルリンで使われる」という意味です。
さらに、こんな例文も載っていました。意味は「私には時間がない」です。
Ich habe keine Zeit.(標準ドイツ語)
Ick hab keene Zeit.(ベルリン方言)
……あれ。
ich が ick になるだけではありません。
habe は hab に、keine は keene になっています。
……君たちも変わるんかい。
まぁ、方言なんですから、一つだけ変わるわけはないですよね。
日本語でたとえるなら、
「これはすごくうまい」 → 「こりゃ、すげぇうめぇ」
になるような感じでしょうか。
そう考えると、冒頭の例文も、きっとこんな場面だったのでしょう。
A:Ick hab keene Zeit.
B:(Er muss aus Berlin kommen.)
大学時代、私が読んでいたのはドイツ語の哲学書で、方言に触れることはほとんどありませんでした。
実は、ケーニヒスベルク生まれのカントが地元の訛りで哲学書を書いていた、なんてことは、おそらくなかったでしょう。
だからこそ、学び直して初めて出会う、こうした「生きたドイツ語」がとても新鮮に感じます。
文法や哲学書だけでは見えてこなかったドイツの日常が、方言を通じて少し見えてきたような気がします。
参考資料
- Duden Online「ick」
