【辞書をめくる】明治時代、Bratscheは「コキウノルイ」だった?

ドイツ語

ドイツ語でヴィオラを意味する Bratsche

前回の記事では、この単語の語源をたどりました。

Dudenによると、Bratscheはイタリア語の viola da braccio に由来し、「腕で弾くヴィオラ」という意味になります。

では、日本ではかつて、この単語をどのように訳していたのでしょうか。

気になった私は、明治時代の独和辞典を調べてみることにしました。

今回開いたのは、明治18年(1885)刊行の『獨和袖珍字彙』です。

編者は井上勤。明治時代に西洋文学の翻訳でも活躍した人物です。

日本とドイツの交流の始まりは、万延元年(1861)の日・プロイセン修好通商条約にさかのぼります。この辞書が刊行されたのは、その約24年後のことでした。

さっそくBratscheの項目を探してみると、次のように書かれていました。

  • Bratsche コキウノルイ(胡弓の類)
  • Bratschist ドウジヤウヲスルヒト(同上をする人)

※括弧内の漢字は筆者が補いました。

ここでいう「同上」とは、直前のBratscheを指しているのでしょう。

 

……コキウノルイ。

なんか思ってたんと違う。

現代なら「ヴィオラ」と訳されるところですが、当時は「胡弓の類」と説明されていたようです。

明治18年の日本、「ヴィオラ」という言葉どころか、西洋の楽器が広く知られていない時代でした。そのため、日本人にも伝わりやすいように、「胡弓の類」と説明したのでしょうか。

140年以上前の翻訳者が、どのように言葉を選んでいたのか想像すると、とても興味深く感じます。

 

さて、Bratscheが「コキウノルイ」なら、ほかの弦楽器はどのように訳されていたのでしょうか。

調べてみると、予想以上に「コキウ」が出てきました。

……その話は、また次回の寄り道で。

 

参考資料

  • 井上勤編『獨和袖珍字彙』、明治18年

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