1985年公開の映画『愛と哀しみの果て』。私の好きな映画の一つです。
20世紀初頭、デンマークから英領東アフリカへ渡り、コーヒー農園を営むことになったカレン・ブリクセン。そこで彼女は、自由を愛するデニス・フィンチ・ハットンと出会います。
※本記事では映画『愛と哀しみの果て』の内容に触れています。未鑑賞の方はご注意ください。
以前書いた記事では、冒頭に流れるモーツァルトのクラリネット協奏曲について書きました。
今回は同じ冒頭を、ドイツ語の勉強がてらドイツ語字幕から見てみます。※()内は私が訳したものです。
物語は、年老いたカレンがアフリカとデニスを回想するところから始まります。
始まりの言葉はこちら。
Er nahm sogar das Grammophon mit auf Safari, drei Gewehre, Verpflegung für einen Monat … und Mozart.
(彼はサファリに蓄音機まで持っていった。三丁の銃、一か月分の食料…そしてモーツァルト)
Grammophon は蓄音機、Gewehr は銃、Verpflegung は食料や糧食。そして最後に Mozart。
ただ単に「三丁の銃、一か月分の食料、そしてモーツァルト」と並べられたら、最後の「モーツァルト」で「!?」となりそうです。
ところが映画では、日の出を迎えるアフリカのオレンジ色の空に、モーツァルトのクラリネット協奏曲が流れています。
その映像と音楽の中で聞くと、「三丁の銃、一か月分の食料、そしてモーツァルト」という少し不思議な並びまで、とても美しく響くのです。
その後には、こんな言葉が続きます。
Er begann unsere Freundschaft mit einem Geschenk.
(彼は一つの贈り物で私たちの友情を始めた)Und später, kurz vor Tsavo, gab er mir noch eines.
(そしてその後、ツァボの少し前に、彼は私にもう一つくれた)Ein unglaubliches Geschenk.
(信じられないような贈り物)
ここで気になったのが Geschenk(贈り物)です。
最初の贈り物として画面に映るのは、デニスからカレンへ贈られた万年筆。
ところが、そのあとにもう一つ。
Ein unglaubliches Geschenk(信じられないような贈り物)。
今度は何をもらったのかと思ったら、飛行機から見るアフリカの風景でした。
一つは手の中に収まる万年筆。
もう一つは、空から世界を見るという経験。
同じ Geschenk なのに、ずいぶん違います。
しかも最初の贈り物は、二人の友情の始まりに贈られたもの。
もう一つは kurz vor Tsavo、「ツァボの少し前」に贈られたもの。物語の先には、デニスの死が待っています。
つまり老いたカレンは、二人の友情が始まったころと、その関係の終わりが近づいたころ、それぞれにデニスから贈られたものを冒頭で振り返っているんですね。
そして、二つ目の「信じられない贈り物」について、こんな言葉が続きます。
Ein flüchtiger Blick auf die Welt durch Gottes Augen …
(神の目を通して見る世界への一瞥…)Und ich dachte:
(そして私は思った)“Ja, ich verstehe.”
(「そう、私はわかる」)“So war es gedacht.”
(「そのように意図されていたのだ」)
flüchtig は「つかの間の、一瞬の」、Blick は「視線、まなざし」。ein flüchtiger Blick で「一瞥」という意味になります。
上記は私なりの直訳ですが、Amazon Prime Videoの日本語字幕を見てみると、さすがプロの翻訳とうなりました。
「神の目から見た世界」
「一目で私は悟った」
「これこそ神が意図した世界に違いないと……」
ドイツ語の So war es gedacht. にあたる英語原文は、This is the way it was intended.
英語原文でもドイツ語字幕でも、この一文自体には「神」は明示されていません。
ところが日本語字幕では、直前の durch Gottes Augen(神の目を通して)を受けるように、「これこそ神が意図した世界に違いない」と訳されています。
そして Ja, ich verstehe. も、直訳すれば「そう、私はわかる」といったところですが、日本語字幕では「一目で私は悟った」。
なるほどなるほど!
何度も見た冒頭ですが、知っているドイツ語を追い、さらに日本語字幕と比べてみると、カレンがこの景色を「信じられないような贈り物」と呼んだ意味が、以前より少し理解できるようになった気がします。
この冒頭だけでも、ドイツ語学習としてかなり収穫がありました。
そして、今回もっとも印象に残ったのは、
Ein unglaubliches Geschenk(信じられないような贈り物)。
いつか私にも、何かをそう呼びたくなるような瞬間があったら、このドイツ語を思い出せるといいなぁ。
出典・参考資料
- Out of Africa, Universal Pictures, 1985. ※Amazon Prime Videoにて英語字幕、日本語字幕、ドイツ語字幕を参照
- 根本道也ほか編集・執筆『アポロン独和辞典』第5版、同学社、1998年2月