最近、ヘルマン・ヘッセ『車輪の下(Unterm Rad)』のドイツ語原文が、Project Gutenbergというサイトで公開されていることを知りました。
『車輪の下』は、才能のある少年ハンスが、周囲から勉強や成功を求められるなかで、しだいに追い詰められていく物語です。
※以下、『車輪の下』序盤の内容に少し触れます。
最近学び直したばかりのドイツ語。もちろん、原文をすらすら読めるわけではありません。
読んでいて意味がわかるのは、会話に出てくる簡単な文章くらい。
そんな中で、
Ich bin ~(私は~です)
のような見慣れた形が出てくると、ちょっと安心します。「これならわかるぞ」と。
たとえば、主人公ハンスが神学校の難関入試に合格し、父親に報告する場面。
Weil ich jetzt Seminarist bin.
(僕はもう神学校の生徒なんだから)
語順を基本形に戻すと、
Ich bin Seminarist.
Seminarist は「神学校生」。とてもわかりやすい Ich bin ~ です。
このときのハンスが、とてもかわいらしいのです。
ようやく大変だった勉強から解放され、大好きな釣りができると大喜び。父親にナイフを借り、釣り竿にする枝を切りに行こうとします。
そんなハンス、神学校へ入学すると、ハイルナーという少年に出会います。
型にはめられた教育を嫌う、夢想家で詩人肌の少年です。
二人は友人になりますが、ハンスにとって困ったことに、ハイルナーはしょっちゅう勉強を邪魔してきます。
ある日、ハイルナーはこう言います。
Ich bin Zwanzigster
(僕は20番だ)
うん、わかる、成績が20番ってことね。
ところが、その後に続く言葉が強烈でした。
und darum doch nicht dümmer als ihr Streber.
(だからって、君たち Streber より頭が悪いわけじゃない)
Streber……?
ドイツ語辞典Dudenで調べると、「学校や仕事で自分が成功するために、野心的かつ利己的に努力する人」を指す、かなり否定的な意味の言葉でした。
この場面なら、「ガリ勉」、「成績ばかり気にする人」といったニュアンスでしょうか。
つまり、「僕は20番だ。だからって、成績ばかり気にしている君たちより頭が悪いわけじゃない」くらいの意味合いになるでしょうか。
……穏やかじゃないなぁ。
しかもハイルナーは、その直前にこうも言っています。
Was hast du davon, wenn du Erster oder Zweiter wirst?
(1番や2番になって、それで何になるんだ?)
これはハンスには刺さりそうです。
なぜなら、神学校の入試に合格したハンスは、父親にこう報告していたからです。
Ich bin der Zweite geworden.
(僕は2番になったんだ)
僕はもう神学校の生徒なんだから。僕は2番になったんだ。
僕は20番だ。でも君たちより馬鹿じゃない。
ハンスは「2番になった」ことを喜び、ハイルナーは「僕は20番だ」と言って、そもそも順位にどれほどの意味があるのかと疑う。
同じ Ich bin ~から始まる言葉でも、そこから伝わってくるものがだいぶ違います。
難しいドイツ語はまだよくわかりませんが、わかるところだけ拾って読んでみても、ハンスとハイルナー、二人の性格の違いが少し見えてきました。
Ich binならわかるぞ、と思って読んでいただけだったんですが、また妙なところへ寄り道してしまいました。
出典・参考資料
- Project Gutenberg「Unterm Rad by Hermann Hesse」
- 阿部知二 [ほか]編『河出世界文学大系』55 (ヘッセ 1),河出書房新社,1980.11.
- Duden Online「Streber」