私の母は、オーストリア人俳優のヘルムート・バーガーが好きでした。
子どものころ、母がヘルムート・バーガー主演、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ルートヴィヒ』を観ていたことを覚えています。
私は横目に断片的に観ただけでしたが、ロミー・シュナイダーの気品に満ちた姿は今も記憶に残っています。
シューマンの《子どもの情景》が流れるシーンもあって、その映像の美しさに強い印象を持ちました。
そんな母から10代のころ、バーガーが出演するある映画について、「観ちゃだめだよ」と言われました。
その映画とは、『地獄に堕ちた勇者ども』。
母は刺激の強い映画を何でも禁止する人ではありません。
私が子どものころには、映画館でメル・ギブソン主演の『ペイバック』を観せています。暴力シーン、かなりあります。
『ペイバック』はよくて、なぜこちらはダメなのか。
母はもう亡くなっているので、確認のしようがないのですが、ともかくそういうことがありました。
ただ、家にあったDVDのカバーを見た10代の私は、母の言葉に素直に従いました。
そこには、女性的な舞台衣装姿のヘルムート・バーガーが大きく写っていたのです。
それから20年近く。別に言いつけを守っていたわけではないのですが、いまだに本編を観ていません。
最近、そろそろ観ようかなと思ったところ、映画より先にタイトルが気になりました。
特にドイツ語題。ドイツ語の勉強になるのでは?という気持ちで調べ始めたのですが……思ってた以上に深かった。
ドイツ語題は、Die Verdammten です。
ドイツ語辞典Dudenを引いてみました。
- Verdammte は名詞化された形容詞で、使用分野は「キリスト教神学」(!)
- 映画題の Die Verdammten はその複数形
- Verdammte は「Verdammnisに陥った人」を意味する
- Verdammnis は「神の前で退けられた状態」、「地獄の罰」を意味する
つまり、Verdammteは「神の前で退けられ、地獄の罰に定められた人」といった意味になるでしょうか。
な、なるほど……。
昔から強烈な邦題だと思っていましたが、「地獄に堕ちた」とドイツ語題には意味のつながりがありそうです。
では、「勇者ども」は?
イタリア語の原題は La caduta degli dei。「神々の没落」です。
なんだかワーグナーの《神々の黄昏》みたいだなぁ。
と思ったら、ドイツ歴史博物館の映画資料でも、原題が《神々の黄昏》を暗示していることが紹介されていました。
さらに、そこで紹介されているヴィスコンティの発言には「ワーグナーの英雄たち」という言葉も。
これが邦題の「勇者ども」と関係するのかはわかりません。
ただ、ずっとどこか不穏に感じていた「勇者ども」が、私には最初ほど唐突には見えなくなりました。
本当の邦題の由来も調べてみたいところですが、これ以上踏み込むと映画の内容まで知ってしまいそうで……。
そして、ふと時計を見ると、この映画のタイトルについて調べ始めてすでに3時間経過していることに気づきました。
映画、観れたな。
出典・参考資料
- Duden Online「Verdammte」、「Verdammnis」
- Deutsches Historisches Museum「WAGNER-KINO」