最近、ヘルマン・ヘッセ『車輪の下(Unterm Rad)』のドイツ語原文を、Project Gutenbergというサイトでゆっくり読んでいます。
『車輪の下』は、才能のある少年ハンスが、周囲から勉強や成功を求められるなかで、しだいに追い詰められていく物語です。
※以下、『車輪の下』序盤の内容に触れます。
先日の記事では、分離動詞 andauern が気になったことをきっかけに、その基礎となる動詞 dauern を調べたことについて書きました。
ドイツ語辞典Dudenを見ると、基本的には「一定の時間続く、持続する」といった意味。
せっかく覚えたので、実際の文章でも読んで定着させたい。
そこで『車輪の下』第一章を見てみると、ハンスの勉強時間を描くところに dauern がありました。
dauernを『車輪の下』で探してみる
『車輪の下』の主人公ハンスは、神学校への進学を目指して勉強に励む少年。第一章では、そのための試験を控えています。
ハンスは町から送り出される唯一の候補者であり、その「名誉」について、ヘッセはこう書いています。
Die Ehre war groß, doch hatte er sie keineswegs umsonst.
(名誉は大きい。しかし、それは決して代償なしに得られるものではなかった)
その直後に語られるのが、ハンスの勉強時間です。
そこで使われる動詞が、dauern。
die Schulstunden, die täglich bis vier Uhr dauerten
(毎日4時まで続く学校の授業)
ところが、4時で終わりではありません。そのあとには、下記も予定されているのです。
- 校長によるギリシャ語の補習
- 6時から牧師によるラテン語と宗教の復習
- 週2回、夕食後に数学教師による1時間の指導
ハンスは何時まで勉強するのか
そして、夜の家庭学習を描くところでも、また dauern が出てきます。
dauerte Dienstags und Samstags gewöhnlich nur etwa bis zehn Uhr, sonst aber bis elf, bis zwölf und gelegentlich noch darüber.
(火曜と土曜はたいてい10時ごろまで、そのほかの日は11時、12時、ときにはさらに遅くまで続いた)
学校の授業では dauerten、家庭学習では dauerte。主語が複数形と単数形なので語形は違いますが、どちらも同じ dauern です。
そして、ここで気になるのが、nur etwa bis zehn Uhr という表現。
火曜と土曜は、ほかの日より短く、10時ごろまで。
それでも10時です。
……ハンス、何時に寝ているんだ。
実際、このあとには、睡眠不足の顔や疲れた目についての描写も出てきます。
こうして dauern の用例を追ってみると、ハンスが何時まで勉強していたのかが具体的に見えてきます。
私には、少し痛々しく感じられます。
前回の記事では、好きな映画やオペラを題材に、dauern を使った例文を自分で作ったんですけど、ハンスの勉強時間を見ていると、なんだか気楽な例文を作っていたのが後ろめたくなってきます。
ほかのdauernも探してみたら……
では、第一章に出てくるほかの dauern はどうでしょう。
すると、今度は叔母さんです。
試験のために訪れた都会で、ハンスは叔母と出かけます。ところが途中で知人に出会い、叔母は話し込みます。
Der Halt dauerte mehr als eine Viertelstunde.
(その場での足止めは15分以上続いた)
ここで、幼いころの母と、友達のお母さんの姿が頭をよぎりました。
大人の立ち話って、子どもにはものすごく長く感じるんですよね……ましてや、ハンスは大切な試験前です。
そしてようやく外へ出たと思ったら、今度は叔母が店へ入り、ハンスはまた待つことになります。
es dauerte eine gute Weile, bis sie wiederkam.
(彼女が戻ってくるまで、しばらくかかった)
……叔母さん、なかなかのマイペースです。
ちなみに店から戻った叔母さんは、ハンスにチョコレートを渡します。
ところが、ハンスはチョコレートが好きではありません……なんだか、かみ合わない二人です。
話を dauern に戻します。
第一章を読む限り、 dauern は、ハンスの勉強時間だけに出てくる言葉ではありません。
学校も長い。
家庭学習も長い。
叔母さんの立ち話も長い。
買い物も長い。
dauern という単語を定着させようと思って『車輪の下』を読んでみたら、朝から夜遅くまで勉強するハンスと、なんともマイペースな叔母さんの姿が見えてきました。
受験生ハンス、大丈夫か。
この第一章を読んだだけでも、もう dauern の意味は忘れなさそうです。
出典・参考資料
- Project Gutenberg「Unterm Rad by Hermann Hesse」
- Duden Online「dauern」
- 阿部知二 [ほか]編『河出世界文学大系』55 (ヘッセ 1),河出書房新社,1980.11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12445693 (参照 2026-09-06)
